「地元で結婚式したいんだけど」


二人とも東京に住んでいるし、当然結婚式は東京でと思っていたので少し驚いた。


彼の実家は石川県の能登。
私が行ったのは2回だけ。生まれも育ちも東京の私には、まだ馴染みのあるところとは言えない場所。

彼は決まって夏になると祭だと言って単身帰っていたし、地元が好きなのは知っていた。
でも、わざわざ遠くに行ってまでするのは抵抗があった。
東京じゃなかったら準備も大変だし、友達も来づらくなるし……


彼はあまりあれこれ話してくれるタイプじゃなかったのと、
結婚式自体もこれといって場所を決めていたわけじゃなかったので、その方向で考えてみることにした。

能登は良いかもしれないな──


料理もお酒も美味しそうだし、和倉温泉という温泉があるのもゆっくりできて良いかもと思った。


あと、“花嫁のれん”が少し気になった。


嫁入りの際、母が嫁ぐ娘のために、1点ものの花嫁のれんを拵える。
嫁ぎ先の仏間に掛けられ、花嫁だけがくぐる特別なもの。
使うのはたった一度きり、加賀藩の婚礼文化。


和装がしたかった私は、その特別な“のれん”に惹かれました。

能登で結婚式をすることに決めた私たち(私?)はさっそく互いの両親にも話をして、友達に伝えました。
「海外じゃないし行きやすし、ちょっと旅行もできるし良い」とのことだったので安心した。


場所が遠かったけど、ドレスや着物は東京で試着ができたし、ある程度決まったプランもあって、結婚式の打ち合わせはメール・電話でもスムーズだった。


「持ち込みできますか?花嫁のれん」


なんと実は彼の実家に母親の「花嫁のれん」があるのだという。
借りるものだとばかり思っていた私は、気持ちが高まった。

迎えた結婚式当日、
海の見えるオーシャンビューでのウエディング。
能登の食事は本当においしかった。


何より友人も泊まってくれて温泉でゆっくりできたのが良かった。
今まで参加していた結婚式は“式だけ”という感じが多かったけど、式のあとも友達とたくさん話すことができた。


「こういうのがしたかってん」


彼は自分たちだけじゃなくて、友達や大切な人と一緒に今日を大切に、ゆっくり過ごしたかったのだそう。
「結婚式ちらっと出てもらったくらいでわからんやろ?」と言い私のこともちゃんと知って欲しかったらしい。

彼は地元の能登が好きで、祭りが好きで、友達や周りの人を大切にする人だったと改めて気づいた。結婚式はどこであげても似たような感じだろうと思っていたけど、ここで結婚することができて本当によかったと思った。